下垂足の鑑別と診察手順|L5神経根症と総腓骨神経障害を見分ける

下垂足:L5神経根症と総腓骨神経障害の鑑別

「つま先が上がらない」「歩くと足先が引っかかる」という下垂足を診たとき、最初に考えるのは総腓骨神経障害とL5神経根症ですが、鑑別は広く、坐骨神経障害、腰仙骨神経叢障害、多発ニューロパチー、運動ニューロン疾患、中枢神経病変なども疑う必要があります。

局在の鍵は、前脛骨筋 (TA)だけを見るのではなく、後脛骨筋 (TP)による足関節底屈・内反と、中殿筋による股関節外転を組み合わせることです。本稿では、外来・救急で迷いにくい診察の順序と神経伝導検査・針筋電図の組み立てを整理します。

目次

3分で押さえるポイント

  • 総腓骨神経障害ではTAが低下する一方、TPによる足関節底屈・内反は比較的保たれる
  • L5神経根症ではTAに加えて、TPや中殿筋など総腓骨神経支配外のL5筋にも筋力低下が及びやすい。
  • 感覚障害の分布だけでは局在できない。総腓骨神経障害でも感覚症状が乏しいことがある。
  • 神経伝導検査は腓骨頭をまたぐ伝導を評価し、針筋電図は大腿筋膜張筋・長趾屈筋・TPなどを加えて近位病変と区別する。

下垂足とは

下垂足(foot drop)は、足関節背屈筋の筋力低下により遊脚期につま先が下がる状態です。患者は「スリッパが脱げる」「段差でつまずく」「足音が大きい」と表現することがあります。診察では踵歩き、通常歩行でのfoot slap、鶏歩(steppage gait)を確認します。

下垂足は疾患名ではなく徴候です。障害部位は大脳・脊髄から神経根、腰仙骨神経叢、坐骨神経、総腓骨神経、末梢神経、筋まで広く、治療を考える前に局在を詰める必要があります。

下垂足を局在するための解剖

L4・L5神経根からTAまで

TAは足関節背屈の主動筋です。運動線維は腰髄前角細胞から出て、主にL4・L5神経根を通り、腰仙骨幹、仙骨神経叢を経て坐骨神経の外側部へ入ります。坐骨神経が膝窩より近位で分かれると総腓骨神経となり、さらに深腓骨神経を介してTAへ到達します。[1]

L4・L5前角細胞 → L4・L5神経根 → 腰仙骨幹 → 仙骨神経叢 → 坐骨神経外側部 → 総腓骨神経 → 深腓骨神経 → TA

この経路のどこが障害されても下垂足が生じます。したがって、TAの筋力低下だけでは病変部位を決められません。総腓骨神経と異なる経路を通るL5支配筋を同時に診ることが重要です。

腓骨頭部が圧迫に弱い理由

総腓骨神経は膝窩を外側へ走り、腓骨頭・腓骨頸の周囲を回り込みます。この部位では神経が約6 cmにわたり骨膜に近接し、皮膚と皮下組織に覆われるだけの区間があります。その後、長腓骨筋を貫き、腓骨トンネルへ入ります。表在性が高く固定されやすいため、脚組み、長時間のしゃがみ込み、術中体位、ギプス、急激な体重減少などで圧迫・牽引を受けやすくなります。[1,2]

解剖から得られる3つの局在ポイント

  • TP:脛骨神経支配ですがL5優位です。ここが弱ければ、孤立性総腓骨神経障害よりL5神経根症など近位病変を考えます。
  • 大腿二頭筋短頭:坐骨神経外側部から膝上で分枝します。針筋電図で異常なら、腓骨頭部より近位の坐骨神経病変を支持します。
  • 足底屈筋と足底感覚:脛骨神経領域まで障害される場合は、総腓骨神経単独より坐骨神経・神経叢病変を疑います。

最初に除外する緊急疾患

局在診断に入る前に、発症様式と随伴症状から緊急性を確認します。下垂足がよくある末梢神経障害に見えても、以下を伴う場合は評価の優先順位が変わります。

臨床所見考える病態初期対応
突然発症、顔面・上肢の麻痺、失語、半側空間無視脳卒中脳卒中診療の手順に沿って緊急評価
腱反射亢進、Babinski徴候、痙性歩行脳・脊髄病変神経内科へ緊急または早期相談
数日で進行する対称性筋力低下、腱反射低下、呼吸・自律神経症状Guillain–Barré症候群など入院を含む緊急評価

下垂足の局在診断

1.総腓骨神経障害

最も典型的なのは腓骨頭部での障害です。足関節背屈、足趾伸展、足関節外反が低下します。一方、脛骨神経支配のTPによる足関節底屈・内反は保たれやすいのが重要です。脚組み・長時間のしゃがみ込み・手術・臥床・体重減少・膝周囲外傷の有無を確認します。

感覚症状は下腿前外側から足背にみられますが、領域は一定しません。ただ、足底神経支配である足底にまで他覚的な感覚鈍麻があるようであれば、総腓骨神経障害は否定的です。感覚所見が乏しいことだけで総腓骨神経障害を除外できません。[1,3]

2.L5神経根症

腰痛や殿部から下肢外側への放散痛を伴うことがありますが、痛みがない例もあります。診察ではTAによる足関節背屈に加え、TPによる足関節底屈・内反中殿筋による股関節外転を確認します。これらが弱ければL5神経根症を支持します。

感覚障害は下腿外側から足背に分布し、総腓骨神経障害と重なります。感覚分布より筋力の組み合わせを重視します。腰痛や間欠性跛行がある場合は、既存記事「「歩くと足がしびれる」を診たとき――腰部脊柱管狭窄症の整理」も参照してください。

3.坐骨神経障害・腰仙骨神経叢障害

坐骨神経外側部の線維は圧迫や牽引に弱く、坐骨神経障害でも総腓骨神経優位の下垂足として発症し得ます。足底屈や足趾屈曲の低下、足底・足外側の感覚障害を伴えば脛骨神経成分の障害を示唆します。股関節手術、骨盤外傷、長時間の圧迫、抗凝固療法、悪性腫瘍、糖尿病などを確認します。

腰仙骨神経叢障害では複数神経領域にまたがる筋力低下と感覚障害を認めるため、症状の広がりを確認して局在を検討する必要があります。

4.多発ニューロパチー・運動ニューロン疾患・中枢病変

両側性・遠位優位で、足部変形や家族歴があれば遺伝性ニューロパチーを考えます。左右差が目立っても、CIDPなど後天性ニューロパチーが鑑別に入ります。既存記事「CIDPとCMTの鑑別」「CMT1X(GJB1関連ニューロパチー)」も参考になります。

感覚障害がなく、線維束性収縮や広い筋節にわたる筋力低下を伴う場合は運動ニューロン疾患を考えます。腱反射亢進、病的反射、痙性、感覚障害と合わない片麻痺がある場合は中枢病変を再検討します。中枢性下垂足はまれですが、見逃してはいけない鑑別です。[4]

診察で見る筋力の組み合わせ

評価する筋・運動主な神経根末梢神経総腓骨神経障害L5神経根症
TA:足関節背屈L4–L5深腓骨神経低下低下
TP:足関節底屈・内反L4–L5脛骨神経保たれる低下し得る
中殿筋:股関節外転L5上殿神経保たれる低下し得る

実臨床では、TAが弱ければTPと中殿筋まで一続きで診ます。反対側と比較し、疼痛や足関節可動域制限による見かけの筋力低下にも注意します。

神経伝導検査・針筋電図の組み立て

神経伝導検査

  • 腓骨神経運動伝導はTA記録を必ず行う。
  • 腓骨頭をまたぐ区間で伝導ブロックや局所的遅延がないかを見る。
  • 浅腓骨神経SNAPを評価する。L5神経根症では後根神経節より近位の病変なので通常は保たれるが、正常値はないので左右比較が重要である。
  • 脛骨神経、腓腹神経、対側も必要に応じて調べ、単神経障害か多発ニューロパチーかを確認する。

腓骨頭部の伝導ブロックを捉えるには、記録筋と刺激部位の選択が重要です。古典的な116病変の検討では、TA記録の腓骨神経運動伝導が局在に有用でした。[3]

針筋電図

TAだけでは総腓骨神経障害とL5神経根症を区別できません。以下のように、同じ神経根で末梢神経が異なる筋、または同じ坐骨神経外側部で病変部位が異なる筋を組み合わせます。[1,5]

L5の障害を疑って検査をするときは、追加の被検筋として大腿筋膜張筋 (TFL)、長趾屈筋 (FDL)、TPなどを検査することが多いです。

大腿二頭筋短頭に異常があり、より遠位の総腓骨神経支配筋にも異常がある場合は、腓骨頭部より近位の坐骨神経外側部病変を考えます。一方、TPや中殿筋の異常はL5神経根症を支持します。ただし、不完全病変、複数病変、糖尿病性ニューロパチー、既往の腰椎疾患が重なると単純な二分法では説明できません。

画像検査

腰椎MRI

腰痛・下肢放散痛を伴う、TPや中殿筋にも筋力低下がある、神経伝導検査で腓骨頭部病変を説明できない、症状が進行する場合は腰椎MRIを検討します。

椎間板突出や脊柱管狭窄は無症候者にもみられるため、画像所見だけでL5神経根症と決めず、症状の側・筋力低下の分布・電気生理所見と整合するかを確認します。

下垂足の診療フロー

  1. 緊急性:突然発症、急速進行、錐体路徴候の有無を確認する。
  2. 歩行:foot slap、鶏歩、踵歩きの可否を観察する。
  3. 筋力:背屈・母趾伸展に加え、外反・内反・股関節外転・底屈を比較する。
  4. 感覚と反射:足背だけでなく足底、下腿外側、腱反射、病的反射を評価する。
  5. 病歴:腰痛、脚組み、しゃがみ込み、体重減少、手術・臥床、外傷、悪性腫瘍、糖尿病、家族歴を確認する。
  6. 電気生理:腓骨頭をまたぐ神経伝導と、TP・TFL・FDLを含む針筋電図で局在する。
  7. 腰椎MRI:L5神経根症を疑う臨床所見がある場合に行い、臨床所見との整合性を確認する。

初期対応で忘れないこと

  • 転倒リスクを評価し、必要に応じて足関節装具(AFO)やリハビリテーションを検討する。[1,6]
  • 脚組み、腓骨頭部への圧迫、きつい装具・ギプスなど修正可能な要因を確認する。
  • 急速な悪化、完全麻痺、外傷後、中枢神経徴候を伴う場合は早期に専門科へ相談する。
  • 改善の程度と時期は脱髄・軸索障害の程度、原因、治療時期で異なる。予後を一律に断定しない。

まとめ

  • 下垂足の二大鑑別は総腓骨神経障害とL5神経根症だが、坐骨神経・神経叢・多発ニューロパチー・中枢病変も忘れない。
  • 総腓骨神経障害ではTAが低下してもTPは保たれやすく、L5神経根症ではTAに加えてTPや中殿筋にも筋力低下が及び得る。
  • 電気生理検査は局在と病態の評価に有用だが、病歴・診察所見との統合が必要である。
  • 画像検査は腰椎MRIに絞り、L5神経根症を疑う臨床所見と対応させて解釈する。

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引用文献

  1. Stewart JD. Foot drop: where, why and what to do? Pract Neurol. 2008;8(3):158–169. doi: 10.1136/jnnp.2008.149393. PMID: 18502948.
  2. Baima J, Krivickas L. Evaluation and treatment of peroneal neuropathy. Curr Rev Musculoskelet Med. 2008;1(2):147–153. doi: 10.1007/s12178-008-9023-6. PMID: 19468889.
  3. Katirji MB, Wilbourn AJ. Common peroneal mononeuropathy: a clinical and electrophysiologic study of 116 lesions. Neurology. 1988;38(11):1723–1728. doi: 10.1212/WNL.38.11.1723. PMID: 2847078.
  4. Westhout FD, Paré LS, Linskey ME. Central causes of foot drop: rare and underappreciated differential diagnoses. J Spinal Cord Med. 2007;30(1):62–66. doi: 10.1080/10790268.2007.11753915. PMID: 17385271.
  5. Marciniak C. Fibular (peroneal) neuropathy: electrodiagnostic features and clinical correlates. Phys Med Rehabil Clin N Am. 2013;24(1):121–137. doi: 10.1016/j.pmr.2012.08.016.
  6. Carolus AE, Becker M, Cuny J, Smektala R, Schmieder K, Brenke C. The interdisciplinary management of foot drop. Dtsch Arztebl Int. 2019;116(20):347–354. doi: 10.3238/arztebl.2019.0347. PMID: 31288916.

本稿は医療従事者向けの一般的な解説です。個別患者の診断・治療は、症状、診察所見、検査結果を統合して担当医が判断してください。

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この記事を書いた人

脳神経内科専門医(日本神経学会)。内科医歴2019年〜、臨床神経生理学(神経伝導検査・針筋電図)を専門とする。

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