手関節部尺骨神経障害(UNW)の局在診断

手内筋の筋力低下や第5指のしびれをみると、まず肘部尺骨神経障害(ulnar neuropathy at the elbow:UNE)を考えがちです。しかし、肘をまたぐ神経伝導が正常で、第一背側骨間筋(first dorsal interosseous:FDI)と小指外転筋(abductor digiti minimi:ADM)の障害に解離がある場合は、手関節部尺骨神経障害(ulnar neuropathy at the wrist:UNW)を再検討する必要があります。

UNWの難しさは、尺骨神経がGuyon管付近で感覚枝と運動枝に分かれ、病変部位によって感覚運動型、純粋感覚型、純粋運動型のいずれにもなり得ることです。さらに解剖学的変異が多く、教科書的な型に当てはまらない症例もあります[1]。

結論は、Wu分類を暗記するのではなく、感覚、ADM、FDIの組み合わせを病変地図として使うことです。そこに手関節・手掌部刺激やDUCなどの電気生理検査、画像検査を加え、局在と原因を別々に確認します。

目次

まず押さえる要点

  • UNWはUNEより稀で、Guyon管入口から手掌深部までの分枝別病変を含む。
  • 手背尺側の感覚が保たれることはUNWを示唆し、DUCの検査は注意しつつ行う必要がある。
  • 純粋運動型も少なくなく、「小指のしびれがない」ことはUNWの除外理由にならない。
  • ADMだけでは遠位深枝病変を見逃すため、UNWを疑う場合はFDI記録を加える。
  • FDI遠位潜時の延長だけではUNEでも異常になり得る。手掌刺激による局所的遅延・伝導ブロックが重要である。
  • 神経伝導検査は機能と局在、超音波・MRIは原因検索に強い。
  • Wuの5型に合わない電気生理学的パターンが約17%あり、分類不一致だけでUNWを否定しない。

UNW = Guyon管症候群ではない!!

Guyon管は豆状骨の近位側から有鉤骨鉤周辺へ続く、手掌尺側の線維骨性トンネルです。尺骨神経と尺骨動脈が通過し、管内から遠位で神経は主に浅枝と深枝へ分かれます。

浅枝は第5指と第4指尺側の掌側感覚を担います。深枝は小指球筋を経て手掌深部を橈側へ走り、骨間筋、虫様筋の一部、母指内転筋などを支配します。小指球隆起部の皮膚感覚を担う掌側皮枝と背側尺骨皮神経は、通常Guyon管より近位で分岐します。

手根部尺骨神経の浅枝(感覚枝)、深部運動枝、小指球筋枝を指示線で示す医学教材風模式図
手根部での尺骨神経分枝。浅枝(感覚枝)、深部運動枝、小指球筋枝(運動枝)を指示線で示す。出典(解剖学的配置):今井富裕.尺骨神経管症候群.臨床神経生理学.2015;43(4):183-188,図4[2]。原図を参考に当サイトで再作図した。doi:10.11422/jscn.43.183

「Guyon管症候群」は管内の圧迫を指すことが多い一方、UNWはGuyon管入口、管内、管遠位の手掌部深枝病変まで含めて使われます。臨床ではUNWを広い局在名として用い、画像で実際の圧迫部位と原因を確認する方が混乱しません。

診察では感覚、ADM、FDIの3列をつくる

感覚

第5指と第4指尺側の掌側感覚を確認し、小指球隆起部、手背尺側と比較します。Guyon管病変では指掌側の感覚が障害されても、より近位で分岐する掌側皮枝と背側尺骨皮神経の領域である小指球隆起部・手背尺側は通常保たれます。ただし、軽症UNEでも手背感覚は保たれ得ます。

小指外転筋(ADM)

ADMは小指外転で評価します。ADMが障害されていれば、深枝の中でも小指球筋枝より近位の病変を考えます。ADMが保たれFDIが弱い場合は、より遠位の深枝病変を示唆します。

第一背側骨間筋(FDI)、骨間筋、母指内転筋

FDIは示指外転、掌側・背側骨間筋は指の内転・外転、母指内転筋はFroment徴候で評価します。純粋運動型UNWでは、感覚症状がなく、巧緻運動障害、ピンチ力低下、FDI萎縮だけが前景に立つことがあります。

Wu分類:分枝別の病変地図として読む

Wuらは、臨床所見と電気生理所見からUNWを5型に分類しました[3]。これは重症度分類ではなく、どの分枝が障害されているかを表す局在分類です。正直これは覚える必要はありませんが、色々な障害パターンがあると認識しておくことが非常に重要です。

Wu分類想定病変部位感覚ADMFDI・母指内転筋
Type IGuyon管入口、分岐前障害障害障害
Type II浅枝、短掌筋枝より遠位障害保たれる保たれる
Type III深枝近位、小指球筋枝より近位保たれる障害障害
Type IV深枝、小指球筋枝より遠位保たれる保たれるFDI、他の骨間筋、尺骨神経支配虫様筋、母指内転筋が障害され得る
Type VFDI・母指内転筋への枝の直前保たれる保たれるFDI・母指内転筋のみ選択的に障害

Type I:感覚と運動の両方

Guyon管入口で浅枝・深枝へ分かれる前の病変です。第5指感覚、ADM、FDIのすべてに異常があれば最初に考えます。

Type II:純粋感覚型

浅枝病変で、ADMとFDIは保たれます。症例数は少なく、尺骨感覚神経の技術的変動、他の感覚ニューロパチーとの鑑別が必要です。

Type III:ADMとFDIがともに障害される純粋運動型

感覚枝分岐後、まだ小指球筋枝が分かれる前の深枝病変です。感覚が正常でもUNWを疑う典型です。

Type IV・V:ADMが保たれる遠位運動枝病変

Type IVではADMを温存し、FDI、他の骨間筋、尺骨神経支配虫様筋、母指内転筋などが広く障害され得ます。Type VはFDIと母指内転筋への枝の直前の病変で、この2筋が選択的に障害され、他の骨間筋・尺骨神経支配虫様筋は保たれます。限局した筋萎縮が運動ニューロン疾患やC8/T1神経根症と紛らわしいことがあります。

150例研究:Wu分類に当てはまらない17.3%

Ginanneschiらは、1995〜2023年に単一の電気診断施設で評価したUNW連続150例を解析しました。50,373件の電気診断検査中0.3%であり、UNWが日常検査では稀な局在であることが分かります[4]。

Wu分類の内訳は次の通りでした。

  • Type I:66例(44%)
  • Type II:12例(8%)
  • Type III:12例(8%)
  • Type IV:28例(18.7%)
  • Type V:6例(4%)

残る26例(17.3%)は5型に当てはまりませんでした。7例(4.7%)は感覚線維と小指球運動線維、19例(12.8%)は感覚線維と骨間筋運動線維が同時に障害される非典型パターンでした。これらは著者らが分類不能群として記載したもので、Wu分類に追加された新しい型ではありません。

UNWは症例数が少なく、非典型例が多いからこそ分類から考えるだけでは不十分です。解剖学的な知識のもとで、電気生理学的検査から可能な限り局在を同定し、画像などと組み合わせる必要があります。

原因検索:病型だけでは原因は決まらない

同研究では、外傷性が33例(22%)、圧迫性が31例(20.7%)でした[4]。外傷性・圧迫性の症例は男性、ブルーカラー労働者、60歳以下に多く、ガングリオン例の66.7%は女性でした。一方、原因不明例は60歳超、筋萎縮、手根管症候群(carpal tunnel syndrome:CTS)の既往と関連していました。病型だけから原因を決めず、病歴と画像で確認します。

外部圧迫には職業性圧迫、サイクリング、ウエイトトレーニング、杖・松葉杖などが含まれます。ガングリオン、血管病変、骨折後変形、異常筋、腫瘍などの構造的原因もあるため、電気生理学的な型だけから原因を推定しないことが重要です。

次の病歴は特に確認します。

  • サイクリング、工具、デスク縁、ウエイト、車椅子、杖による手掌尺側の反復圧迫
  • 有鉤骨鉤を含む手関節・手掌外傷
  • 手関節手術、腱鞘・関節疾患
  • 手掌尺側の腫瘤、拍動、手指の冷感・色調変化
  • CTSの既往または正中神経領域の症状

同研究ではGuyon管症候群とCTSの併存が比較的多いことも確認されました[4]。症状を尺骨神経だけに固定せず、正中神経も同時に評価します。

神経伝導検査:ADMだけで終わらせない

基本セット

  1. 尺骨運動神経伝導:ADM記録
  2. 尺骨運動神経伝導:FDI記録
  3. 手関節・手掌部刺激による短区間評価
  4. 第5指尺骨感覚神経と背側尺骨皮神経 (DUC)

FDI記録が重要な理由

SerorのUNW 53例では、ADM遠位潜時の感度42%、感覚神経伝導の感度19%に対し、FDI遠位潜時は66%でした。手関節をまたぐ伝導ブロックの検索を加えると診断感度は90%まで上昇しました[5]。

Cowderyらの前向き研究でも、UNW 20例のうち、手掌―手首間のFDI線維伝導遅延は80%、伝導ブロックは70%にみられ、両者のいずれかは95%で確認されました[6]。一方、FDI遠位潜時延長は高度UNEでもみられました。

実際の検査を行うにあたっては、ADMのNCSをまず行って、UNEではないことをまず確認することが多いです。

したがって、FDI遠位潜時が長いことだけではUNWを確定せず、手掌刺激で局所的な遅延または伝導ブロックを示すことが重要です。数値基準は距離、電極、皮膚温、施設基準で変わるため、自施設の基準値を用います[7]。

背側尺骨皮神経についての注意

背側尺骨皮神経 (DUC)はGuyon管より近位で分岐するため、UNWでは通常保たれます。UNEでも感度が十分でなく正常となり得るため、正常な背側尺骨皮神経SNAPだけでUNWとUNEを分けないようにするという報告もありますが[4]、ちゃんとspreadに気をつければ非常に有用だと個人的には感じています。
UNWのSCSでは本幹刺激でもDUCにspreadして波形が出てしまう場合があります[8]。digit V, DUC位置の両方に記録電極をおいて確認するのが重要です。

ADMについて

深部運動枝の障害の場合、FDI / ADMで障害の解離が出る場合があります。ただ、ADM CMAPの低下はさほどではないことが多いです。これはADM CMAPに骨間筋のfar field potentialが入っているからです[9]。なので、ADMの筋力とADM CMAPに解離がある場合はUNWは鑑別にあがります。

画像検査:超音波で追い、深部・骨性病変はMRIやCTへ

神経伝導検査は「どの線維がどこで機能障害を起こしているか」を示しますが、ガングリオン、血管病変、異常筋、骨折後変形などの原因そのものは示せません。

高周波神経超音波では、尺骨神経を前腕からGuyon管入口、浅枝・深枝へ連続して追跡できます。神経腫大、扁平化、ガングリオン、尺骨動脈病変、異常筋を動的に評価でき、電気診断と相補的に用いることで局在情報と原因検索を補えます[10]。

MRIは深い手掌部、腫瘤、筋脱神経変化、手術計画の評価に有用です。骨折、とくに有鉤骨鉤病変が疑われる場合は単純X線やCTを検討します。画像は全例一律ではなく、構造病変が疑われる場合、進行例、原因不明例で検討します。

UNWを支持する所見の組み合わせ

評価軸UNWを支持する組み合わせ検査
感覚第5指・第4指尺側の掌側感覚障害と、小指球隆起部・手背尺側の温存DUC SNAPと本幹SNAPの解離
運動ADM温存+FDI・母指内転筋障害、または感覚正常+ADM・FDI障害FDIの潜時延長や手掌ー手関節間でのCB
画像Guyon管または深枝の局在に対応する構造病変画像正常のみでの除外

手関節―手掌間の局所的異常を認めればUNWを支持しますが、正常でもUNWを除外できません。所見を組み合わせて判断します。

肘病変の詳しい検査法は「肘部尺骨神経障害(UNE)の診察と神経伝導検査」を参照してください。

両側性、複数神経領域、下肢症状を伴う場合は、単独のUNWに固定せず「CIDPとCMTの鑑別」も含めて全身性ニューロパチーを再検討します。

診療フロー

  1. 診察:臨床所見からulnar neuropathyらしいことを確認する
  2. 神経伝導検査を行う:ADMでUNE除外、手掌・手首でのADM/FDIのNCS、第5指感覚・DUCの確認
  3. 正中神経も調べる:場合によっては行う
  4. 画像で原因を探す:構造病変が疑われる場合、進行例、原因不明例では超音波を検討し、深部・腫瘤・骨病変ではMRI/CTを追加する

治療・紹介の考え方

反復圧迫が原因と考えられる軽症例では、原因動作の中止・修正、手掌尺側への圧を避ける工夫、作業具やハンドルの調整を行います。ただし、UNWの治療研究は小規模症例集積が中心で、保存療法の効果を定量化できる質の高い比較試験は乏しいのが現状です[11]。

次の場合は、臨床経過、電気生理、画像を合わせて早期の手外科・整形外科への相談を検討します。血管病変が疑われる場合は、必要に応じて血管外科へつなぎます。

  • 進行性のFDI・骨間筋筋力低下または筋萎縮
  • ガングリオン、腫瘤、異常筋などの構造的圧迫
  • 骨折・脱臼・鋭的外傷後
  • 尺骨動脈血栓、手指虚血を疑う冷感・色調変化・疼痛
  • 電気生理で高度の軸索障害を認める場合
  • 原因圧迫の回避後も症状が進行・遷延する場合

さらに読む:レビュー3本

1.臨床全体を把握する

Coraciらの2018年レビュー[1]は、解剖、分類、原因、診察、電気診断、画像、治療を短く俯瞰できます。UNWを初めて体系的に学ぶ入口として最も使いやすいレビューです。

2.解剖と手外科的視点を学ぶ

ChenとTsaiの2014年レビュー[11]は、Guyon管の解剖、病変部位ごとの症候、原因、治療を手外科の視点から整理しています。構造的原因と手術適応を理解するのに向いています。

3.神経超音波を学ぶ

KarvelasとWalkerの2019年レビュー[10]はオープンアクセスで、前腕から手掌まで尺骨神経をどう追うか、正常解剖と病変を図で確認できます。電気診断後に超音波で原因を探す流れを学ぶのに有用です。

まとめ

UNWは、感覚障害の有無だけでは診断できません。感覚、ADM、FDIの組み合わせから解剖学的に障害されている部位を推定します。

FDI遠位潜時の延長だけでUNWを確定せず、手掌刺激による局所的遅延・伝導ブロックを探します。Spreadに留意しつつ、ulnar SCSを行います。UNWを確定できれば超音波・MRIで原因を探します。

※本記事は医療従事者向けの一般的な情報です。個別患者の診断・治療は、症状、診察、電気生理所見、画像所見を統合して担当医が判断してください。

次に読む

引用文献

  1. Coraci D, Loreti C, Piccinini G, Doneddu PE, Biscotti S, Padua L. Ulnar neuropathy at wrist: entrapment at a very “congested” site. Neurol Sci. 2018;39(8):1325-1331. doi:10.1007/s10072-018-3446-7. PMID:29779137.
  2. 今井富裕. 尺骨神経管症候群. 臨床神経生理学. 2015;43(4):183-188. doi:10.11422/jscn.43.183.
  3. Wu JS, Morris JD, Hogan GR. Ulnar neuropathy at the wrist: case report and review of literature. Arch Phys Med Rehabil. 1985;66(11):785-788. PMID:4062532.
  4. Ginanneschi F, Curcio M, Aretini A, Mondelli M. Clinical and electrophysiologic features of ulnar neuropathy at the wrist: analysis of 150 consecutive cases. J Clin Neurophysiol. 2026;43(4):347-355. doi:10.1097/WNP.0000000000001211. PMID:41042967.
  5. Seror P. Electrophysiological pattern of 53 cases of ulnar nerve lesion at the wrist. Neurophysiol Clin. 2013;43(2):95-103. doi:10.1016/j.neucli.2012.11.037. PMID:23540258.
  6. Cowdery SR, Preston DC, Herrmann DN, Logigian EL. Electrodiagnosis of ulnar neuropathy at the wrist: conduction block versus traditional tests. Neurology. 2002;59(3):420-427. doi:10.1212/WNL.59.3.420. PMID:12177377.
  7. Kim KH, Kim BS, Kim MJ, Kim DH. Localization of ulnar neuropathy at the wrist using motor and sensory ulnar nerve segmental studies. J Clin Neurol. 2022;18(1):59-64. doi:10.3988/jcn.2022.18.1.59. PMID:35021277.
  8. Murashima H, Sonoo M, Tsukamoto H, Kawakami S, Kawamura Y, Hokkoku K, et al. Spread to the dorsal ulnar cutaneous branch: a pitfall during the routine antidromic sensory nerve conduction study of the ulnar nerve. Clin Neurophysiol. 2012;123(5):973-978. doi:10.1016/j.clinph.2011.08.031. PMID:22001168.
  9. Higashihara M, Sonoo M, Imafuku I, Ugawa Y, Tsuji S. Origin of ulnar compound muscle action potential investigated in patients with ulnar neuropathy at the wrist. Muscle Nerve. 2010;41(5):704-706. doi:10.1002/mus.21620. PMID:20229582.
  10. Karvelas KR, Walker FO. Clinical and ultrasonographic features of distal ulnar neuropathy: a review. Front Neurol. 2019;10:632. doi:10.3389/fneur.2019.00632. PMID:31293494.
  11. Chen SH, Tsai TM. Ulnar tunnel syndrome. J Hand Surg Am. 2014;39(3):571-579. doi:10.1016/j.jhsa.2013.08.102. PMID:24559635.
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

脳神経内科専門医(日本神経学会)。内科医歴2019年〜、臨床神経生理学(神経伝導検査・針筋電図)を専門とする。

コメント

コメントする

目次