「歩くと足がしびれる」を診たとき ── 腰部脊柱管狭窄症の整理

腰部脊柱管狭窄症 アイキャッチ

 筋電図外来をやっていると「力が入らない」「歩くと足がしびれる」という主訴は非常に多くみかけます。下肢の筋力低下や間欠性跛行をみたとき、脳神経内科医はまず多発ニューロパチーやALSなどを考えますが、その鑑別の先に必ず出てくるのが整形外科領域の疾患です。今回は、非常にcommonですが脳神経内科医が苦手としている疾患の1つ、腰部脊柱管狭窄症(LSS)についてまとめていきます。

目次

腰部脊柱管狭窄症(LSS)とはどんな病気か

 腰部脊柱管狭窄症(LSS: lumbar spinal stenosis)の概念は、1954年にVerbiestが脊柱管の狭小化によりradicular syndromeが生じることを指摘したことに始まります1。その後、加齢に伴う黄色靱帯肥厚や椎間関節症、椎間板変性による狭窄が主な病態として認識され、腰椎の伸展で誘発され前屈で軽快する神経性間欠性跛行と神経根症状を特徴とする疾患と考えられています2。臨床症候群としてのLSSの有病率は高齢者の約11%、世界では約1億人と推定され、加齢とともに増加します2

 LSSはこのように画像ありきの病態として認識されてきましたが、2010年代に入り、無症候性狭窄の多さが指摘されるようになりました3。日本人938名を対象とした横断研究(Wakayama Spine Study、男性308名・女性630名、平均年齢66.3歳)では、参加者の77.9%が中等度以上の中心性狭窄を、30.4%が重度の中心性狭窄を有していた一方、重度狭窄を有する人のうち症状があるのはわずか17.5%でした4。なお同コホートでは、症状を伴う狭窄が身体機能の低下と関連することも示されています5

 また、中等症で手術を受けなかった患者の自然経過を中央値3.3年追跡した報告では、下肢痛・腰痛ともに約1/3が改善、約半数が不変、悪化は10〜13%にとどまり、画像所見だけでは経過を予測しにくいことが示されています6

 現時点でLSSの診断は画像と症状によってなされていますが、上記のように画像所見は特異的ではなく、症状についてもやや不透明である点が、LSSの大きな課題となっています。

病態:なぜ前屈で楽になるのか

 LSSの症状は姿勢に強く依存します。腰椎を伸展(後屈・立位・歩行)すると、肥厚した黄色靱帯が脊柱管内に前方へ膨隆し、椎間板の膨隆と相まって脊柱管の断面積が縮小します。これにより馬尾・神経根が機械的に圧迫されるだけでなく、馬尾周囲の静脈がうっ滞して微小循環障害(虚血)をきたすと考えられています。逆に前屈・座位では脊柱管が広がり症状が軽快します2。前屈やショッピングカート・自転車で楽になる病歴や立位での増悪は、いずれもこの姿勢依存の機序で説明できます。

臨床像と「型」

 LSSは障害される神経要素により、神経根型・馬尾型・混合型に分けられます(表1)。これは本邦で広く用いられる分類で、Kikuchiらが脊髄造影(peridurography)と神経根ブロックを組み合わせ、形態だけでなく機能の面から責任高位と神経障害の型を同定したことに由来します7。神経根型は片側性で、責任神経根のデルマトームに沿った下肢痛・しびれが主体です。馬尾型は両側性で、会陰部のしびれや膀胱直腸障害(排尿障害)を伴い、一般に予後が悪く手術が選択されやすい型です。混合型は両者の要素をあわせもちます。日本の自記式診断サポートツールがこの型の推定を組み込んでいるのも、型によって治療方針と予後が異なるためです8

表1 LSSの型

項目神経根型馬尾型
分布片側性・デルマトーム性両側性
主症状下肢痛・しびれ両下肢のしびれ、会陰部症状
膀胱直腸障害まれあり(排尿障害など)
予後・治療比較的良好不良、手術が選択されやすい

混合型は両型の要素をあわせもつ。

 筋電図外来でしばしば問題になる下肢の筋力低下も、髄節性(多根性)の分布をとるかどうかが鑑別の鍵になります。たとえばL5根領域の障害では前脛骨筋・長母趾伸筋の筋力低下から下垂足を呈し、腓骨神経麻痺やALSとの鑑別が必要になります。

 なお、急速に進行する両下肢麻痺、尿閉やサドル麻痺を伴う場合は、馬尾症候群(cauda equina syndrome)として緊急の対応を要します。これは見逃してはならないred flagです。

診断:病歴と検査の組み合わせ

 LSSの臨床像は長らくconsensusがなく、診断のゴールドスタンダードは専門家の意見とされてきました9。2016年のISSLS Prize Winnerとなった国際Delphi研究では、診断に重要な病歴項目が検討され、6つの質問で約80%の確信度に達すること、そして7項目をpragmaticな診断基準として用いうることが示されました(Box1)10

Box1 LSS診断のための7項目(国際Delphi研究)

  • 歩行中に脚や臀部に痛みを感じるか
  • 症状を和らげるために前屈するか
  • ショッピングカートや自転車を使うと楽になるか
  • 歩行中に運動・感覚症状が出るか
  • 下肢の脈拍は触知でき、左右対称か
  • 下肢の筋力低下はあるか
  • 腰痛はあるか

 実際の診断では、神経学的所見と腰椎MRI、歩行負荷テストを組み合わせます。病歴の評価には、日本脊椎脊髄病学会が作成した診断サポートツール(2007年、Konnoら)が広く用いられています11。病歴2項目・問診3項目・身体所見5項目からなり、合計−2〜16点で評価し、7点以上で腰部脊柱管狭窄症の可能性が高いと判定します。カットオフ7点での感度は92.8%、特異度は72.0%でした11(表2)。なお、問診のみで判定でき馬尾型の推定も可能な、東北腰部脊柱管狭窄症研究会の自記式サポートツールも報告されています8

表2 腰部脊柱管狭窄診断サポートツール

区分評価項目判定(スコア)
病歴年齢60歳未満(0)/60〜70歳(1)/71歳以上(2)
病歴糖尿病の既往あり(0)/なし(1)
問診間欠跛行あり(3)/なし(0)
問診立位で下肢症状が悪化あり(2)/なし(0)
問診前屈で下肢症状が軽快あり(3)/なし(0)
身体所見前屈による症状出現あり(−1)/なし(0)
身体所見後屈による症状出現あり(1)/なし(0)
身体所見ABI 0.9以上(3)/未満(0)
身体所見ATR低下・消失あり(1)/正常(0)
身体所見SLRテスト陽性(−2)/陰性(0)

該当項目のスコアを合計(マイナスは減算)。7点以上で腰部脊柱管狭窄症の可能性が高い。ABI: ankle brachial pressure index、ATR: Achilles tendon reflex、SLR: straight leg raising test。(日本脊椎脊髄病学会 診断サポートツール/Konnoら 2007、腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン2021より作成)

 ただし、いずれのツールもゴールドスタンダードが不在のまま検証されたものであり、解釈には注意が必要です。

 実地臨床でまず鑑別すべきは、血管性間欠性跛行(末梢動脈疾患, PAD)です。Box1に下肢脈拍の項目が含まれるのもこのためで、姿勢依存性・回復様式・下肢血流所見が手がかりになります(表3)。

表3 神経性間欠性跛行と血管性間欠性跛行の鑑別

項目神経性間欠性跛行(LSS)血管性間欠性跛行(PAD)
誘発立位・歩行など姿勢に依存一定の運動量(歩行距離)に依存
前屈・座位軽快する姿勢では変わらない
自転車前屈位のため楽にこげる下肢痛で困難なことが多い
回復座る・前屈で数分かけて軽快立ち止まれば速やかに軽快
下肢動脈拍動正常減弱・消失
ABI正常低下(<0.9)

PAD: peripheral arterial disease、ABI: ankle brachial pressure index。両者は併存しうる点にも注意する。

画像評価(解剖学的分類とSchizas grading)

 狭窄は部位によって、中心性狭窄(central stenosis)、外側陥凹狭窄(lateral recess stenosis)、椎間孔狭窄(foraminal stenosis)に分けられます。Wakayama Spine Studyをはじめ疫学研究の多くは中心性狭窄を対象としています。横断像では馬尾は硬膜囊の背側にやや一塊として存在し、L4/5レベルでは左右対称・円弧状に整然と並びます12

 画像評価では、従来は硬膜囊横断面積(dural sac cross-sectional area: DSCA)が用いられてきましたが、無症候例との重なりが大きいことが問題でした。Schizasらは、軸位T2強調像における馬尾と髄液の比に基づく形態学的grading(A〜D)を提案しています13。髄液が保たれるGrade A・Bと、髄液が消失するGrade C・Dに大別され、C・D群は保存療法に失敗しやすいことが報告されています13。形態に着目するこの分類は、面積計測のみよりも神経組織への圧迫を反映しやすく、予後予測の点でも有用とされています。

電気診断(EDX)の役割

 電気生理学的検査はLSSそのものを確定する検査ではありません。しかし、MRIの特異度が低いという弱点を補い、不要な手術を避けるうえで意義があります14。脳神経内科の立場からは、次のような流れでmimicsを除外し、障害の分布を評価します。

 まず神経伝導検査(NCS)で、多発ニューロパチー・CIDP・絞扼性ニューロパチーといった末梢神経障害を除外します。次に針筋電図で脱神経・再支配所見の分布を確認します。LSSを直接証明する目的での針筋電図の有用性は確立していませんが、変化が髄節性(多根性)パターンをとるか否かをみることで、ALSのような広汎な前角細胞障害や単一末梢神経障害との鑑別に役立ちます14。傍脊柱筋を加えるPSM(paraspinal mapping)も提案されていますが、腰椎レベルでは正常者でも異常を呈しうるため、解釈には注意が必要です15,16

 近位の伝導はF波・H反射で補い、馬尾や後索路の機能評価にはSEPが用いられます。SEPは神経学的所見を補完しうるとされ17、近年では脛骨神経SEPのP15・N21を用いた分節評価の有用性も報告されています18。総じてEDXは「LSSを証明する」検査というより、「LSSらしさを支持し、似て非なる疾患を除外する」検査と位置づけるのが実践的です。

腰部脊柱管狭窄症の治療

 基本的に保存療法が第一選択であり、活動調整(長時間の立位・歩行を控える)、NSAIDsなどの鎮痛薬、理学療法が基本です2,19。下肢のしびれに対するリマプロスト、腰痛に対するNSAIDsの短期使用は日本のガイドラインでも触れられていますが、エビデンスは必ずしも明確ではありません8。硬膜外ステロイド注射は広く行われますが、長期的な有用性は確立されていません2

 保存療法を3〜6か月行っても痛みが持続する場合や、神経学的機能が悪化する場合には外科手術が検討されます20。外科的治療のエビデンスとしてはSPORT試験が知られていますが、群間のcrossoverが多く、intention-to-treat解析では明確な差を示しにくい一方、as-treated解析では手術の有用性が示唆されました21,22。2016年のCochrane reviewでも、手術と保存療法のあいだに明らかな優劣は示されておらず、手術には有害事象が多い点が指摘されています23

まとめ

 腰部脊柱管狭窄症は脊柱管狭窄による下肢の神経症状を総称した症候群で、客観的な診断基準は存在しません。無症候性狭窄が多くMRIの解釈には注意が必要で、姿勢依存性の病歴と神経学的所見、そして「型」の評価が診断の中心になります。脳神経内科医にとってのLSSは、多発ニューロパチー・ALS・腓骨神経麻痺などのmimicsを電気生理で除外し、馬尾症候群を見逃さないことに役割があります。治療の明確なエビデンスは乏しいものの、型と重症度に応じて保存療法と手術を使い分ける視点が重要です。

参考文献

  1. Verbiest H. A radicular syndrome from developmental narrowing of the lumbar vertebral canal. J Bone Joint Surg Br. 1954;36-B(2):230-7.
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  9. Zileli M, et al. Natural course and diagnosis of lumbar spinal stenosis: WFNS spine committee recommendations. World Neurosurg X. 2020;7:100073.
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  12. 北口知明, 赤澤健太郎, 山田惠. 馬尾障害の画像診断. BRAIN and NERVE. 2021;73(6):697-714.
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この記事を書いた人

脳神経内科専門医(日本神経学会)。内科医歴2019年〜、臨床神経生理学(神経伝導検査・針筋電図)を専門とする。

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