眼瞼下垂の鑑別と診察手順【神経内科外来】

個人的に脳神経内科外来・筋電図外来をやっていて何となく診療してしまっているのが「まぶたが落ちる」「目が開きづらい」という主訴、つまり眼瞼下垂です。眼瞼下垂は先天性・後天性に分けられますが、本記事では神経内科外来でしばしば出会う後天性眼瞼下垂を、緊急性の判断4分類の鑑別という軸でまとめます。

目次

3分で押さえる緊急サイン

眼瞼下垂の緊急サイン
緊急性が高い4つのサイン。瞳孔・眼球運動・発症様式・変動性を必ず確認する。

はじめに ― 解剖と分類

眼瞼下垂は偽眼瞼下垂先天性後天性に分類されます。眼を閉じる筋は顔面神経支配の眼輪筋、上まぶたを挙げる筋は次の2つです。

  • 眼瞼挙筋(levator palpebrae superioris):動眼神経上枝支配の横紋筋。挙上の約80%を担う。
  • Müller筋(superior tarsal muscle)交感神経支配の平滑筋。1–2 mmの追加挙上に寄与(Bacharach 2021)。

診療は問診から始まります。発症が突然 / 急性 / 慢性のいずれか、寛解や増悪があるか、複視をはじめとした随伴症状の有無を最初に確認します。

臨床所見

眼瞼下垂を認めたら、ルーチンで瞳孔・対光反射・眼球運動を評価します。動眼神経麻痺(特に対光反射の消失を伴う場合)は内頸-後交通動脈瘤の可能性があり、頭部MRI/MRAが必須です。動眼神経麻痺以外の眼球運動障害があった場合は、MG・Horner症候群・Fisher症候群・特発性眼窩炎症などを鑑別に入れます。

甲状腺眼症に伴う偽眼瞼下垂では、罹患側で眼瞼後退があり、角膜上方に強膜が見えるDalrymple徴候を呈します。症状を訴えていない側の眼のチェックも重要です。

また、Heringの法則も重要です。眼瞼下垂は左右差があることがあり、健側にみえる側の障害の有無=両側性かどうかを評価するのにHeringの法則が有用です。患側のまぶたを持ち上げると、下垂の弱い/下垂していない健側のまぶたがゆっくりと垂れ下がります(enhanced ptosis)。

臨床的な定量指標

  • 眼瞼裂高(PF: palpebral fissure height、正常 8–11 mm)
  • 上眼瞼縁反射距離(MRD-1: margin reflex distance、正常 4–5 mm)
  • 上眼瞼縁~重瞼線距離(CH: eyelid crease height、男性 8 mm/女性 9–10 mm)
  • 挙筋機能(LF: levator function、Berke法)

PF・MRD-1・LFを主に診療することが多いです(図1, 2)。

眼瞼計測 静的指標
図1:静的指標(PF / MRD-1 / CH)
挙筋機能 Berke法
図2:挙筋機能(Berke法)。前頭筋を遮断して下方視→上方視での上眼瞼縁の移動量を測定。

LFは10 mm以上で正常、5–10 mmで中等度低下、4 mm以下で不良(Cetinkaya 2008)。LF低下は筋原性・神経原性・先天性の可能性を示します。

鑑別マトリクス(4分類の比較)

臨床的にはまず偽眼瞼下垂を除外し、後天性眼瞼下垂を機械性・筋原性・神経筋接合部性・神経性の4つに分類します(表1)。

後天性眼瞼下垂4分類の鑑別マトリクス
表1:後天性眼瞼下垂4分類の比較。* Horner症候群はMüller筋(交感神経支配の平滑筋)麻痺による軽度下垂のため、LFは正常であることが多い。

鑑別の各論

機械性(腱膜性)

後天性眼瞼下垂で最も多いタイプです。眼瞼挙筋腱膜の加齢性伸展、頻繁な眼のこすり、ハードコンタクトレンズ(HCL)の長期使用、眼科手術後などが原因となります。眼窩腫瘍が鑑別に混じることもあるため、上眼瞼外側の膨隆や腫瘤を明室で観察・触診することが重要です(眼窩腫瘍の見落とし対策、熊切 2025)。LFは正常であることが特徴です。

筋原性

慢性進行性外眼筋麻痺(CPEO)、眼咽頭筋ジストロフィー(OPMD)、筋強直性ジストロフィー(MyD)などが挙げられます。いずれも慢性経過で、四肢の筋力低下や嚥下障害を伴うことが多いです。両側性のことが多いですが、左右差を伴うこともあります。MyDではCK軽度上昇、OPMDではCKは正常〜軽度上昇となることがあります。

神経筋接合部性(重症筋無力症 / MG)

眼症状はMGの初発症状として最多(約72%が眼瞼下垂、約47%が複視で発症)であり、診断時には眼瞼下垂が82%、複視が59%にみられます(澤村 2020)。眼筋型の約20%が経過中(多くは2年以内)に全身型へ移行します。

診察上のポイント:

  • 1–2分間の上方注視でまぶたが下がってくる(Simpson試験
  • アイスパックテスト(2–5分間)で改善

アイスパックテストは比較的感度の高い検査ですが、特異度を保証する大規模研究は乏しく、解釈には注意が必要です。エドロホニウム(テンシロン)テストは安全性・供給の問題から実臨床では使われにくくなっています。眼筋型では抗AChR抗体陽性率は約50%、抗MuSK抗体はまれであり、抗体陰性でMGを否定してはいけません。反復刺激試験(RNS)はocular MGではdecrementを認めないことが多く、確度が高いのは単線維筋電図(SFEMG)です(ただしSFEMGは筋疾患・神経疾患でも異常を呈するため、SFEMG異常=MGではありません)。

神経性(緊急性に注意)

Horner症候群の眼瞼下垂は軽度で、眼瞼裂全体の縮小を伴い眼球陥凹に見えることがあります。点眼試験ではコカイン点眼で患側に散瞳が起きないこと(散瞳の左右差 ≥0.8 mm)でHorner症候群と判定しますが、神経眼科にここまで依頼した経験はありません。突然発症・疼痛・他の神経症状を伴う場合、脳幹梗塞・頸動脈解離が鑑別に入るため、MRI/MRAが必要になります。個人的にはHorner症候群の診察は難しく、他の神経症状と合わせて初めて気がつくことが多いです。

動眼神経麻痺の場合、瞳孔散大を伴うときには内頸-後交通動脈瘤の圧迫が強く疑われ、超緊急で脳神経外科へ紹介します(虚血性は瞳孔回避が多い)。

診療フローチャート

LF低下がある場合は神経筋疾患の可能性が高くなりますが、LF正常でもMGは否定できません瞳孔異常がある場合は神経性を示唆します。下記フローを参照してください。

眼瞼下垂の鑑別フロー
図3:眼瞼下垂の鑑別フロー。偽眼瞼下垂の除外→両側性/片側性→LFと瞳孔→補助検査。

神経内科として眼瞼下垂をみるとき

神経内科・筋電図外来では、神経・筋の障害として診察することが多いです。最も注意するべきは、動脈瘤や脳梗塞が鑑別となる神経性の眼瞼下垂です。突然発症ないしは突発完成型の病歴聴取が第一歩で、急性より早い経過とわかったら他の脳神経評価・四肢筋力評価をルーチンに加えます。Horner症候群や動脈瘤を疑った場合、MRI/MRAを撮影しつつ脳外科へコンサルトします。

急性〜慢性経過で筋原性・神経筋接合部性を疑う場合は、慢性経過ならOPMD/MyD(CKと遺伝子検査)、変動性ならMG(抗AChR/抗MuSK・SFEMG)の順で鑑別を絞っていきます。

まとめ

  • 後天性眼瞼下垂は機械性・筋原性・神経筋接合部性・神経性の4つに大別される。
  • 機械性ではLFが正常であることが多い。
  • 神経性には緊急疾患(動脈瘤、脳幹梗塞、頸動脈解離)が紛れ込むため、瞳孔・眼球運動・発症様式を必ず確認する。
  • MGでは日内変動・易疲労性を聴取し、抗体検査・SFEMGまで進める。抗体陰性でも除外できない。
  • Heringの法則を意識し、健側を持ち上げて患側の変化を観察する。

引用文献

  1. Bacharach J, Lee WW, Harrison AR, Freddo TF. A review of acquired blepharoptosis: prevalence, diagnosis, and current treatment options. Eye (Lond). 2021;35(9):2468–2481.
  2. 熊切將宜. 眼瞼下垂 ― 見落としてはならない鑑別疾患と最適な術式選択をマスター! 形成外科 79(11): 12–17, 2025.
  3. 澤村裕正. 眼瞼下垂の鑑別 ― 神経眼科医の立場から. 形成外科 63(11): 1374–1383, 2020.
  4. 柿﨑裕彦. 上眼瞼下垂(概論, Levator Resection). 眼形成外科 ― 虎の巻 ―. メディカル葵出版, 2009: 9–24.
  5. Cetinkaya A, Brannan PA. Ptosis repair options and algorithm. Curr Opin Ophthalmol. 2008;19(5):428–434.
  6. 日本神経学会(監). 重症筋無力症/ランバート・イートン筋無力症候群診療ガイドライン 2022. 南江堂.
  7. Yadegari S. Approach to a patient with blepharoptosis. Neurol Sci. 2016;37(10):1589–1596. doi:10.1007/s10072-016-2633-7

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この記事を書いた人

脳神経内科専門医(日本神経学会)。内科医歴2019年〜、臨床神経生理学(神経伝導検査・針筋電図)を専門とする。

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