CIDPとCMTの鑑別に重要な点

CIDPとCMT:鑑別のポイント

慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(chronic inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy:CIDP)は治療可能な末梢神経疾患ですが、単独で診断を確定できるバイオマーカーはありません。臨床像と神経伝導検査を中心に、脳脊髄液検査、画像検査、治療反応などを組み合わせて診断します。

この診断過程で重要な鑑別が、Charcot-Marie-Tooth病(CMT)などの遺伝性ニューロパチーです。CMTをCIDPと診断すると、効果のない免疫治療が長期間続く一方で、装具、リハビリテーション、遺伝カウンセリングなどの必要な支援が遅れます。

本稿では、CIDPとCMTの鑑別に重要な病歴、診察、神経伝導所見、治療反応の評価を整理します。

目次

1. CMTはCIDPの重要なmimic

Hauwらの大学病院を主体とした国際多施設共同研究では、CIDPと診断された1,104例のうち35例(3.2%)が、遺伝学的検査によってCMTと判明しました。CMT群はCIDP群より発症年齢が若く、治療反応を認めた割合はCMT群20%、CIDP群69%でした。

誤診された35例に行われた治療費は460万ユーロ、1,104例全例にCMTの遺伝学的検査を行う費用は270万ユーロと推計されています。医療制度が異なるため日本へそのまま当てはめることはできませんが、CMTを見逃す影響が患者負担だけでなく医療経済にも及ぶことを示しています。

特に慎重な評価が必要なのは、遠位優位の筋力低下・感覚障害を示すdistal CIDPです。家族歴がある場合は、CMTに加えてATTRvアミロイドーシスなどの遺伝性ニューロパチーも再検討します。

2. 病歴で確認するポイント

① 発症時期を小児期までさかのぼる

患者が症状を病気として自覚した時期と、末梢神経障害の徴候が始まった時期は一致しないことがあります。「数か月前からしびれる」という訴えでも、詳しく尋ねると子どもの頃からつまずきやすかった、走るのが苦手だった、若い頃から靴が合いにくかったという病歴が見つかることがあります。

40歳未満の発症はCMTを考える手がかりですが、成人後に症状が目立つCMTもあります。年齢だけで除外せず、長い時間軸を再構成します。

② 診断名ではなく表現型で家族歴を聴取する

家族に「CMT」や「末梢神経障害」と診断された人がいるかを尋ねるだけでは不十分です。家族の凹足、細い下腿、つまずき、杖歩行、手先の不器用さ、原因不明の歩行障害を確認します。

一方、家族歴がないことだけでCMTは否定できません。軽症の家族が未診断である場合、家系が小さい場合、新生バリアントなどがあります。

③ 経過が治療と本当に連動しているか

免疫治療後に「調子がよい」「しびれが軽い」と感じても、それだけではCIDPを支持する客観的治療反応とはいえません。治療前後の筋力、握力、歩行、日常生活動作が再現性をもって変化しているかを確認します。

3. 神経診察で確認するポイント

① 凹足・hammer toes

凹足(pes cavus)やhammer toesは、長期間持続する末梢神経障害の手がかりです。軽度の足変形は見逃しやすいため、立位での足部、靴底の減り方、下腿遠位の筋萎縮も確認します。

② 遠位・下肢優位の障害

CMTでは一般に遠位・下肢優位の筋力低下と感覚障害が目立ちます。典型的CIDPでは近位筋と遠位筋の両方が障害されるため、長期経過でも近位筋力が保たれている場合はCMTとの整合性を検討します。

③ 陽性症状があってもCMTを除外しない

しびれ感や疼痛が強いと、炎症性ニューロパチーを考えやすくなります。しかし、CMTでも疼痛や異常感覚はみられます。陽性症状の存在だけで、遺伝性ニューロパチーの可能性を下げないことが重要です。

4. 神経伝導検査の読み方

CIDPの診断では、獲得性脱髄を示す電気生理学的所見が重要です。ただし、「伝導速度が遅い」ことと「CIDPである」ことは同義ではありません。

CIDPを支持する所見

  • 基準を満たす伝導速度低下・遠位潜時延長
  • 複数神経におけるF波潜時延長または消失
  • 解剖学的絞扼部位以外での伝導ブロック
  • 時間的分散の増大
  • 臨床像と整合する複数神経での異常

過剰診断につながりやすい所見

  • CMAP振幅低下に伴う伝導速度低下
  • 手根管など圧迫されやすい部位だけの遅延
  • 腓骨神経-短趾伸筋の所見だけで基準を満たす場合
  • 温度、刺激不足、距離測定など技術的要因の影響
  • 波形を確認せず、計測値だけで脱髄と判断すること

感覚神経伝導検査では、abnormal median–normal sural patternがCIDPを支持することがあります。一方、CMTでは長さ依存性に腓腹神経を含む下肢感覚神経の障害が目立つことがあります。ただし、このパターンだけで両者を確定的に区別することはできません。

注意:遺伝性=必ず均一、ではない

CMT1Xの女性では、左右差、不均一な伝導速度、伝導ブロックを認めることがあります。神経伝導所見の不均一性だけでCIDPと判断せず、病歴・家族歴・足変形を統合します。

5. 脳脊髄液蛋白上昇は支持的所見にとどまる

脳脊髄液の蛋白細胞解離はCIDPの支持的所見ですが、CIDPに特異的ではありません。年齢、糖尿病、脊椎疾患などでも蛋白は上昇し、CMTでも軽度上昇することがあります。

前述のHauwらの研究では、脳脊髄液蛋白の中央値は、CIDPと誤診されたCMT群0.5 g/L、CIDP群0.8 g/Lでした。軽度の蛋白上昇を、臨床像や神経伝導所見より優先しないことが重要です。

6. 免疫治療反応を客観化する

治療反応はCIDPの支持的所見になり得ますが、主観的な改善は診断エラーの原因にもなります。CIDPではない患者でも、免疫治療後にしびれ、疼痛、疲労感などの改善を自覚することがあります。

2021年EAN/PNSガイドラインでは、治療反応を評価する際に、能力低下(disability)と機能障害(impairment)を客観的尺度で確認する考え方が示されています。

領域評価尺度の例臨床的に意味のある改善の目安
能力低下I-RODS4 centile points以上の上昇
能力低下INCAT disability scale1ポイント以上の低下
機能障害MRC sum score2〜4ポイント以上の上昇
機能障害握力(Martin vigorimeter)8〜14 kPa以上の上昇
機能障害握力(Jamar dynamometer)10%以上の上昇

治療開始前に評価項目を決め、投与との時間関係をそろえて反復測定します。例えば、INCATまたはI-RODSに加えて、MRC sum scoreまたは握力を用います。「しびれが軽い」だけで治療効果ありとせず、日常生活と神経機能が実際に改善したかを確認します。

7. PMP22陰性だけでCMTを否定しない

CMTを疑った場合、PMP22の重複・欠失が最初に検査されることがあります。しかし、CMTにはGJB1、MPZ、MFN2をはじめ多数の原因遺伝子があり、PMP22の重複・欠失がないことはCMT全体の否定にはなりません。

次の所見が重なる場合は、GJB1を含む遺伝子パネル検査など、追加の遺伝学的検査を検討します。

  • 若年発症、または小児期からの徴候
  • CMTを示唆する家族歴
  • 凹足、hammer toes、慢性の足変形
  • 遠位・下肢優位で近位筋力が保たれる
  • 神経伝導検査が獲得性脱髄として非典型的
  • 免疫治療による客観的改善がない

8. CIDPとCMTの鑑別表

鑑別項目CMTを示唆CIDPを示唆
時間軸小児期・若年からの徴候、緩徐進行8週間以上で進行する獲得性の経過
家族歴類似の足形、歩行障害、手の不器用さ通常は遺伝形式を示す家族歴なし
障害分布遠位・下肢優位が多い典型例では近位・遠位の両方
足部所見凹足、hammer toes、慢性の足変形典型所見ではない
神経伝導検査病型に応じた遺伝性ニューロパチーのパターン複数神経で獲得性脱髄を支持する所見
脳脊髄液蛋白軽度上昇することがある上昇は支持的所見だが非特異的
免疫治療一貫した客観的改善に乏しい能力低下・機能障害の客観的改善

この表は二者択一の診断基準ではありません。各所見の重みは症例によって異なり、CMTとCIDPが併存する可能性もあります。臨床像、電気生理学的所見、経過を統合して判断します。

9. 「難治性CIDP」と判断する前のチェック

  1. 臨床病型はCIDPの定義に合っているか
  2. 神経伝導検査は複数神経で獲得性脱髄を示しているか
  3. 波形と技術的要因を再確認したか
  4. 髄液蛋白上昇などの支持的所見を過大評価していないか
  5. 治療前後で能力低下と機能障害を測定したか
  6. 家族歴、凹足、若年発症などのred flagsはないか
  7. PMP22陰性だけで遺伝性ニューロパチーを除外していないか

十分な治療を行っても客観的改善がない場合、治療強化だけでなく診断そのものを再点検します。抗MAG抗体関連ニューロパチー、遺伝性ニューロパチー、ATTRvアミロイドーシス、糖尿病性ニューロパチーなど、臨床病型に応じたmimicを見直します。

10. Take-home

  • 若年発症、小児期からの徴候、家族歴、凹足、遠位優位の障害はCMTを示唆するred flagsです。
  • 伝導速度低下だけでCIDPとは診断できません。波形、障害分布、技術的要因を確認します。
  • 髄液蛋白上昇は支持的所見であり、臨床像・神経伝導所見より優先しません。
  • 免疫治療の効果は、能力低下と機能障害の尺度を用いて客観的に評価します。
  • PMP22検査が陰性でもCMTは否定できません。臨床的に疑わしければ追加の遺伝学的検査を検討します。
  • 「難治性CIDP」では、治療強化と同時に診断を見直します。

参考文献

  1. 日本神経学会監修. 慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー,多巣性運動ニューロパチー診療ガイドライン2024. 南江堂; 2024.
  2. Van den Bergh PYK, et al. European Academy of Neurology/Peripheral Nerve Society guideline on diagnosis and treatment of chronic inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy: Report of a joint Task Force—Second revision. Eur J Neurol. 2021;28(11):3556-3583. doi:10.1111/ene.14959
  3. Hauw F, et al. Charcot-Marie-Tooth disease misdiagnosed as chronic inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy: An international multicentric retrospective study. Eur J Neurol. 2021;28(9):2846-2854. doi:10.1111/ene.14950
  4. Allen JA, Lewis RA. CIDP diagnostic pitfalls and perception of treatment benefit. Neurology. 2015;85(6):498-504. doi:10.1212/WNL.0000000000001833
  5. Allen JA, Ney J, Lewis RA. Electrodiagnostic errors contribute to chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy misdiagnosis. Muscle Nerve. 2018;57(4):542-549. PubMed
  6. Barbat du Closel L, et al. Clinical and electrophysiological characteristics of women with X-linked Charcot-Marie-Tooth disease. Eur J Neurol. 2023;30(10):3265-3276. doi:10.1111/ene.15937

本稿は医療者への情報提供を目的としており、個別の患者に対する診断・治療を指示するものではありません。実際の診療では、最新の診療ガイドライン、電子添文、患者ごとの臨床状況をご確認ください。

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この記事を書いた人

脳神経内科専門医(日本神経学会)。内科医歴2019年〜、臨床神経生理学(神経伝導検査・針筋電図)を専門とする。

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