小指・環指のしびれと手内筋筋力低下をみたとき、最初に考える局在の一つが肘部尺骨神経障害(ulnar neuropathy at the elbow:UNE)です。ただし、症状の分布だけでは手関節部尺骨神経障害(ulnar neuropathy at the wrist:UNW)、C8/T1神経根症、下神経幹・内側神経束病変を区別できません。
結論は、感覚障害の範囲、尺骨神経支配筋と非尺骨神経支配筋の組み合わせ、肘をまたぐ運動神経伝導検査を一つの局在仮説として統合することです。Tinel徴候、背側尺骨皮神経、前腕の尺骨神経支配筋のいずれか一つだけで局在を決めないことが重要です。
まず押さえる要点
- UNEは「肘の尺骨神経障害」の総称で、すべてが狭義の肘部管症候群とは限らない。
- 第5指の感覚低下は有用だが、診察所見単独の感度には限界がある。
- 肘部Tinel徴候や肘屈曲圧迫テストは、陽性だけでUNEを確定できない。
- 神経伝導検査では、肘上・肘下刺激に加えてADMとFDIの両方から記録すると診断精度が上がる。
- ルーチン検査で局在が曖昧なら、短区間刺激(short-segment study)と神経超音波を追加する。
- 背側尺骨皮神経の反応が正常、またはFCU・FDPが針筋電図で正常でも、UNEは除外できない。
UNEの解剖:病変は「肘のどこか」まで絞る
尺骨神経は上腕内側を下降し、内側上顆の後方にある尺骨神経溝を通過します。その後、HUA (humeroulnar aponeurotic arcade)の下をくぐり、尺側手根屈筋(FCU)の上腕頭と尺骨頭の間から前腕へ入ります。
臨床・電気生理学的には、少なくとも次の2部位を意識します。
1.内側上顆後方(retrocondylar/retroepicondylar groove)
神経は骨性の溝を走り、外部からの圧迫や肘屈曲に伴う牽引の影響を受けます。神経の亜脱臼や肘周囲の変形が関与することもあります。
2.HUAの下(狭義のcubital tunnel)
尺骨神経がFCUへ入る近位部で、線維性アーケードによる絞扼が起こり得ます。したがって、UNEとcubital tunnel syndromeを完全な同義語として扱うより、まずUNEと局在し、その後に尺骨神経溝かHUAかを検討する方が実践的です。
FCUと第4・5指の深指屈筋(FDP)への筋枝は肘より遠位で分岐します。ただし、神経内の束状構造と選択的な線維障害のため、これらの筋が保たれていてもUNEを否定できません。
症状と診察:単一所見ではなく組み合わせでみる
感覚
典型的には第5指と第4指尺側、尺側手掌のしびれ・感覚低下です。背側尺骨皮神経は手関節より近位で尺骨神経から分岐するため、手背尺側の感覚低下はUNWより近位の病変を示唆します。
ただし、感覚分布には個人差があり、軽症例や束状障害では所見が不明瞭です。144例のUNEと144例の対照を比較した前向き多施設研究では、第5指の触覚低下が臨床所見の中で最も高感度でしたが、感度は70.8%でした[1]。正常な感覚診察だけでUNEを除外できないことが分かります。
運動
次の筋を左右差と筋萎縮を含めて評価します。
- 第一背側骨間筋(FDI)
- 小指外転筋(ADM)
- 母指内転筋:Froment徴候
- FCU:手関節屈曲・尺屈
- 第4・5指FDP:DIP関節屈曲
Wartenberg徴候やFroment徴候は手内筋筋力低下を捉えますが、UNEに特異的ではありません。C8/T1神経根症や下神経幹・内側神経束病変では、総指伸筋(ED)や短母指外転筋(APB)など尺骨神経以外のC8/T1支配筋にも筋力低下が広がる点が局在の手掛かりになります。
誘発テスト
肘部Tinel徴候、肘屈曲圧迫テスト、尺骨神経の圧痛・肥厚は補助所見です。UNE疑い192例を対象とした前向き研究では、Tinel徴候の感度62%、特異度53%、肘屈曲圧迫テストの感度61%、特異度40%でした[2]。陽性でも陰性でも、単独では診断を大きく動かしません。そのため、電気生理学的な評価が非常に重要となります。
早めに専門医評価へつなぐ所見
次の場合は、保存的に経過を見る前に神経内科、整形外科・手外科などで早期評価を行います。
- 外傷、骨折・脱臼、術後、急性血腫に続く症状
- 数週から数か月で進行する手内筋筋力低下
- 持続性の感覚脱失、巧緻運動障害
- 肘周囲の腫瘤、強い局所痛、神経の有痛性亜脱臼を疑う所見
- 神経伝導検査で高度の伝導ブロックまたは明らかな軸索障害を示す場合
鑑別表:UNE、UNW、C8/T1神経根症
| 所見 | UNE | UNW | C8/T1神経根症・近位病変 |
|---|---|---|---|
| 第5指・第4指尺側の感覚障害 | あり得る | あり得る | あり得る |
| 手背尺側の感覚障害 | あり得る | 原則保たれる | あり得る |
| FCU・第4/5指FDP | 障害され得るが、しばしば保たれる | 保たれる | 障害され得る |
| FDI・ADM | 障害され得る | 病変部位により選択的 | 障害され得る |
| APBなど非尺骨神経性C8/T1筋 | 原則保たれる | 保たれる | 障害され得る |
| 肘をまたぐ運動神経伝導 | 局所的遅延・伝導ブロック | 正常 | 通常は局所的異常なし |
| 尺骨神経SNAP | 低下または正常 | 病型により低下または正常 | 神経根症では通常保たれ、腕神経叢病変では低下し得る |
この表は方向づけです。特に、背側尺骨皮神経の感覚神経活動電位(SNAP)が正常だからUNW、FCU・FDPが正常だからUNWという二分法は危険です。UNEでもこれらが保たれることがあります。
両側性、複数神経領域、下肢症状を伴う場合は、単ニューロパチーに固定せず「CIDPとCMTの鑑別」も含めて全身性ニューロパチーを再検討します。
神経伝導検査:肘の距離・肢位・記録筋をそろえる
UNEの電気診断では、技術条件そのものが診断精度を左右します。皮膚温を確認し、肘を70〜90度屈曲させ、肘上―肘下間を正確に計測します。尺骨神経の亜脱臼があると皮膚上の距離と実際の神経走行がずれ、伝導速度を誤って見積もることがあります。
また、手の形を一定にしておくことも非常に重要です。ADMのCMAP波形は、指が屈曲しているなどの手の形の微妙な変化で変わってしまうため、検査時に電極を保持していない方の手で被験者の手をしっかりおさえることが重要となります(私は第4, 5指のMP関節を中心に抑えるイメージでやっています)。
AAEM/AAN/AAPM&Rのpractice parameterは、70〜90度の肘屈曲、10 cmの肘上―肘下区間、表面刺激・記録を前提に、次の所見をUNEを示唆する異常として挙げています[3]。
私の施設では、肘は伸展位に保ち、内側上踝から遠位 2.5cm地点をbelow elbow、近位 2.5cmをabove elbowとして、潜時差(transcubital latency:TCL)が1.4ms以上である場合、異常としています。
| 指標 | UNEを示唆する所見 |
|---|---|
| 肘上―肘下の運動神経伝導速度 | 50 m/s未満 |
| 肘上―肘下と肘下―手関節の速度差 | 肘部区間が10 m/sを超えて遅い |
| 肘下刺激から肘上刺激でのCMAP陰性頂点振幅低下 | 20%を超える |
これらは単独の絶対基準ではありません。施設の基準値、波形の形、刺激の最大上性、距離測定、肢位、Martin–Gruber吻合などを確認し、複数の整合する異常で判断します。
ADMだけでなくFDIでも記録する
基本プロトコルは次の通りです。
- 尺骨運動神経伝導検査:手関節、肘下、肘上刺激
- ADM記録に加えてFDI記録
- 第5指尺骨感覚神経と背側尺骨皮神経
- 必要に応じて正中・橈骨神経、対側、下肢神経を追加
- 針筋電図でFDI、ADM、FCU、第4/5指FDP、非尺骨神経性C8/T1筋を評価
Vinciguerraらの研究では、ADMまたはFDIの少なくとも一方で肘をまたぐ運動神経伝導速度を評価した場合の局在感度は84.7%で、両筋を記録すると診断精度が向上しました[1]。束状障害や解剖学的変異を考えると、記録筋を一つに限定しない利点があります。
インチングを追加する場面
10 cm区間は局所的な遅延を平均化し、病変部位をぼかすことがあります。臨床的にUNEを疑うのにルーチン検査が境界域、肘部だけ遅いが局在が不明確、あるいは軸索障害はあるが脱髄性局在所見に乏しい場合は、1cm間隔のインチングを検討します。
Visserらは73上肢を2 cm間隔で評価し、ルーチン検査で肘部遅延のみ、または非局在性異常だった37上肢のうち28上肢(76%)でインチングが追加の局在情報を与えたと報告しました[4]。
針筋電図の役割
針筋電図は、軸索障害の有無と重症度、慢性再支配、近位病変との鑑別に有用ですが、NCSで多くの場合はっきりさせることが出来るため、行わないこともあります。C8が疑わしい場合はEDやPSMを追加で検査することが多いです。
神経超音波:電気診断を補完する
神経超音波では、内側上顆周囲の尺骨神経断面積、局所的腫大、扁平化、亜脱臼、周囲の構造物を評価できます。AANEMのエビデンスに基づくガイドラインは、UNEが疑われる患者で尺骨神経の断面積または径を測定し、診断確認と圧迫部位の局在に用いることをLevel Bで推奨しています[5]。
ただし、研究ごとに測定部位とカットオフ値が異なります。一つの断面積の数値を普遍的な診断基準にせず、症状・診察・神経伝導検査と統合します。神経伝導検査が非局在性、神経亜脱臼や腫瘤を疑う場合は特に有用です。
UNEの鑑別としてUNWをどう考えるか
UNWでは、尺骨神経がGuyon管入口から手掌深部までのどこで障害されるかにより、感覚型、運動型、混合型が生じます。したがって、「小指のしびれがないからUNWではない」とは言えません。深枝病変では純粋運動型となり、FDIや母指内転筋が障害されてもADMが保たれることがあります。
実臨床では、次の組み合わせでUNWを疑います。
- 肘をまたぐ運動神経伝導が正常
- 前腕の尺骨神経支配筋が正常
- 背側尺骨皮神経SNAPが保たれる
- ADMとFDIの障害に解離がある
- 手関節・手掌部の短区間検査や画像で局在する
ただし、最初の3項目はいずれも単独では決め手になりません。UNWの分枝別局在と検査法は別記事で詳しく扱います。
診療フロー
- 症状分布を確認:第5指・第4指尺側、手背尺側、頸部から上肢への放散
- 筋力の組み合わせを診る:FDI、ADM、ED、FCU、第4/5指FDP、APB
- 早期紹介所見を確認:進行性筋力低下、筋萎縮、外傷、腫瘤
- 神経伝導検査:ADM+FDI記録、手関節・肘下・肘上刺激、尺骨感覚・背側尺骨皮神経
- 局在が曖昧なら追加:短区間刺激、針筋電図、神経超音波
- 肘が正常ならUNWを再検討:FDI/ADMの解離と手関節・手掌部の局在検査
- 非尺骨神経性C8/T1筋も異常なら:神経根・腕神経叢・多発単ニューロパチーを検討
治療は重症度と原因で決める
軽症で筋力低下や筋萎縮がない場合は、肘への持続的な外圧と長時間の深い屈曲を避けるよう説明し、就寝時の肘肢位調整やスプリントを検討します。ただし、保存療法の比較試験は少なく、2025年Cochrane reviewでも、教育、夜間スプリント、神経滑走、注射療法などの効果には不確実性が残るとされています[6]。
進行性筋力低下、明らかな筋萎縮、高度の軸索障害、構造的圧迫、十分な保存療法で改善しない場合は手外科・整形外科へ紹介します。術式の選択は神経の亜脱臼、圧迫部位、肘変形、既往手術などで変わるため、電気診断だけで一律に決めません。
一方で、既存の文献を読んでいると診断のgold standardのブレなど含めてまだまだ研究がされていないこともあり、今後研究していく必要があります。
まとめ
UNEの診断は、小指のしびれや肘部Tinel徴候だけで行なってはいけません。感覚分布、尺骨神経支配筋と非尺骨神経支配筋の筋力などから臨床的に診断し、ADMとFDIを用いたNCSやSNAP振幅などを組み合わせて局在し確定診断へ結びつけます。
ルーチン検査での検査ではっきりした異常が見つからない場合は、インチングや神経超音波を検討します。UNWとの鑑別は難しいですが、背側尺骨皮神経や前腕筋が正常であること、肘をまたぐ伝導が正常でFDI/ADMに解離があることなどはUNWに示唆的です。
※本記事は医療従事者向けの一般的な情報です。個別患者の診断・治療は、症状、診察、検査所見を統合して担当医が判断してください。
引用文献
- Vinciguerra C, Curti S, Aretini A, Sicurelli F, Greco G, Mattioli S, et al. Clinical findings and electrodiagnostic testing in ulnar neuropathy at the elbow and differences according to site and type of nerve damage. Am J Phys Med Rehabil. 2020;99(2):116-123. doi:10.1097/PHM.0000000000001286. PMID:31369403.
- Beekman R, Schreuder AHCML, Rozeman CAM, Koehler PJ, Uitdehaag BMJ. The diagnostic value of provocative clinical tests in ulnar neuropathy at the elbow is marginal. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2009;80(12):1369-1374. doi:10.1136/jnnp.2009.180844. PMID:19553231.
- American Association of Electrodiagnostic Medicine, American Academy of Neurology, American Academy of Physical Medicine and Rehabilitation. Practice parameter for electrodiagnostic studies in ulnar neuropathy at the elbow: summary statement. Muscle Nerve. 1999;22(3):408-411. doi:10.1002/(SICI)1097-4598(199903)22:3<408::AID-MUS16>3.0.CO;2-7. PMID:10086904.
- Visser LH, Beekman R, Franssen H. Short-segment nerve conduction studies in ulnar neuropathy at the elbow. Muscle Nerve. 2005;31(3):331-338. doi:10.1002/mus.20248. PMID:15635692.
- Shook SJ, Ginsberg M, Narayanaswami P, Beekman R, Dubin AH, Katirji B, et al. Evidence-based guideline: Neuromuscular ultrasound for the diagnosis of ulnar neuropathy at the elbow. Muscle Nerve. 2022;65(2):147-153. doi:10.1002/mus.27460. PMID:34921428.
- Caliandro P, La Torre G, Padua R, Giannini F, Reale G, Padua L. Treatment for ulnar neuropathy at the elbow. Cochrane Database Syst Rev. 2025;4(4):CD006839. doi:10.1002/14651858.CD006839.pub5. PMID:40298125.

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