手の使いづらさを主訴に受診し、頸椎MRIの所見から「頸椎症」と診断されている患者さんに出会うことがあります。しかし、MRI異常 = 頸椎症ではありません。その症状の原因が筋萎縮性側索硬化症(ALS)など、別の疾患である可能性も、脳神経内科医は考えます。[1,2]。
頸椎MRIの所見で思考を止めず、臨床所見や電気生理学的所見と組み合わせて解釈することが重要です。 画像上の頸椎変性や脊髄圧迫と、臨床的な脊髄症は同じではありません。まず病歴と神経診察から頸髄障害を考え、その症候をMRI所見で説明できるか確かめます。電気生理検査は、局在や鑑別に必要なものを選びます[1,2,3,4]。
症候と画像が一致しなければ、その圧迫を責任病変と決めず、診察・画像・鑑別を再評価します。 別疾患への置き換えだけでなく、頸髄症と末梢神経障害などの併存も考えます。
頸椎症性脊髄症(cervical spondylotic myelopathy:CSM)は、頸椎の変性により頸髄が障害される病態です。後縦靱帯骨化症なども含む包括的な名称として、変性性頸髄症(degenerative cervical myelopathy:DCM)が用いられます[5]。本稿ではCSMとDCMを必要に応じて使い分けます。
まず押さえるポイント
- MRIで異常を認めても、それだけで頸椎症性脊髄症とは診断しない
- 筋力低下の分布、異常感覚、排尿障害や歩行障害の有無など総合的に診断する
- MRI上の椎間板膨隆や脊髄圧迫は、症状のない人にもみられる
- MRIは構造、SEPは主に後索系、MEPは主に皮質脊髄路の機能をみるので、総合的に判断する
- 治療は画像の強さではなく、臨床的な重症度、進行性、生活機能、患者の希望で決める
最重要:MRI異常だけの症例は多い
無症候者1,211人を調べた頸椎MRI研究では、椎間板膨隆87.6%、脊髄圧迫5.3%、髄内信号変化2.3%を認めました。脊髄圧迫と髄内信号変化は50歳以降で増加しました[6]。対象年齢や「圧迫」の定義が異なる研究では、無症候性圧迫の頻度はさらに高く報告されています[7]。
したがって、次の3つは分けて考えます。
| 状態 | 解釈 |
|---|---|
| 頸椎の変性所見のみ | 加齢性変化として非常に多い。症状の原因とは限らない |
| 画像上の脊髄圧迫があるが脊髄症候がない | 非脊髄症性の脊髄圧迫。臨床的CSMとは呼ばない |
| 脊髄症候があり、その局在を説明する圧迫がある | 症候性CSM/DCMを支持する |
T2強調像の髄内高信号も重要な所見ですが、CSMに特異的ではなく、症状の重症度や予後と一対一には対応しません。「圧迫がある」から一歩進み、「その圧迫が現在の神経症候を説明できるか」を判断することが診断の核心です。
どのような症状が出るのか
上肢:しびれより「手が使いにくい」を聞く
初期には、手指のしびれ、感覚の鈍さ、握力低下、巧緻運動障害がみられます。患者は「箸を落とす」「ボタンが留めにくい」「字が乱れる」「小銭を取り出しにくい」と表現します。頸部痛がない例、手の症状が先行する例もあります[8]。
上肢位置覚低下が出ることが多く、親指探しが上手くできない症例も多い印象です。
下肢:歩行と階段を具体的に聞く
下肢症状は、脚のこわばり、つまずき、方向転換の不安定さ、転倒、階段を下りる怖さとして現れます。通常歩行だけでなく、方向転換や継ぎ足歩行も確認します。
進行例では排尿切迫や排尿困難を伴うことがあります。ただし、軽症CSMで高度の膀胱直腸障害が前景に立つ場合は、ほかの脊髄疾患や泌尿器疾患も再検討します。
髄節徴候と索路徴候を分ける
圧迫高位では前角・神経根の障害により、上肢の筋力低下、筋萎縮、腱反射低下などの髄節徴候が出ます。その尾側では、反射亢進、病的反射、痙性歩行などの長索路徴候が出ます。上肢の髄節徴候が、下肢の錐体路徴候より先に目立つこともあります[2]。
椎間高位と頸髄節は一致しません。おおまかな目安はC3/4椎間―C5髄節、C4/5―C6、C5/6―C7、C6/7―C8ですが、多椎間病変や個人差があるため、固定的に当てはめません。
Hoffmann徴候、Trömner徴候、腕橈骨筋反射逆転、Babinski徴候、足クローヌスなどは組み合わせて判断します。単一徴候の陰性でDCMを除外することはできません[9]。また、腰部脊柱管狭窄症や末梢ニューロパチーの併存により、下肢反射亢進が目立たないことがあります。
脳神経内科医が重視する鑑別
頸椎MRIに圧迫像があっても、次の所見を説明できなければ別疾患または併存病変を探します。
| 鑑別 | CSMだけでは説明しにくい手掛かり | 次の評価 |
|---|---|---|
| ALS・運動ニューロン疾患 | 感覚障害が乏しい、球症状、舌・頸部・傍脊柱筋を含む広範な萎縮やfasciculation、髄節を越える持続進行 | 神経筋診察、NCS・針筋電図、呼吸・嚥下評価 |
| CTS・UNE・多発ニューロパチー | 末梢神経の分布に一致する感覚・筋力低下、反射低下、足にも遠位症状 | NCS・針筋電図、必要に応じ神経超音波 |
| 炎症性・代謝性・血管性脊髄症 | 急性〜亜急性、感覚レベル、病変長や造影所見が非典型、全身所見 | 脳・全脊髄画像、髄液、血液検査などを病像に応じて選択 |
| 脳病変 | 突然発症、顔面症状、失語・構音障害、片側優位の広い障害 | 急性なら脳卒中経路を含む脳画像評価 |
特にALSは中高年で頸椎変性を併存しやすく、MRI異常がALSを否定する根拠にはなりません。一方、しびれの自覚があっても、診察で客観的感覚障害が再現できるかを確認します。
なぜ起きるのか
2020年の『Nature Reviews Neurology』総説は、DCMを単なる機械的圧迫ではなく、静的・動的因子による慢性脊髄圧迫に、虚血、炎症、脱髄、軸索・神経細胞障害が重なる病態として整理しています[10]。臨床的には、静的圧迫、動的圧迫、二次性脊髄障害の3つで考えると理解しやすくなります。
静的圧迫
椎間板膨隆、骨棘、鉤椎・椎間関節の変性、後縦靱帯骨化、黄色靱帯の肥厚・たわみなどが脊柱管を狭くします。発育性脊柱管狭窄があると、比較的小さな変性でも脊髄が圧迫されやすくなります。
動的圧迫
屈曲・伸展で脊髄の緊張や圧迫は変化します。特に伸展時には、前方の椎間板・骨棘と後方の黄色靱帯の間で圧迫が増える場合があります。中間位MRIだけで動的要素を十分に表せない例もあります。
二次性脊髄障害
慢性圧迫に、微小循環障害、血液脊髄関門の破綻、炎症、脱髄、軸索障害が加わります。除圧しても全例が発症前に戻るとは限らないため、治療の第一目標は進行を止め、残存機能の回復を最大化することです。
検査:MRI、SEP、MEPをどう使うか
| 検査 | 主に評価するもの | 脳神経内科で有用な場面 | 限界 |
|---|---|---|---|
| 頸椎MRI | 圧迫部位・方向、脊髄変形、髄内信号 | 臨床的に頸髄症を疑ったときの構造評価 | 無症候性異常が多く、画像だけでは責任病変を決められない |
| SEP | 主に大径有髄線維を介する後索―内側毛帯路 | 感覚路障害の機能的確認、臨床とMRIが一致しない例 | 温痛覚路を十分に評価しない。末梢神経障害の影響を受け、正常でも除外できない |
| MEP/CMCT | 主に皮質脊髄路 | 錐体路障害の機能的補助評価 | 手技・基準値の施設差があり、正常でも除外できない |
| NCS・針筋電図 | 神経根、末梢神経、前角細胞・運動ニューロン | 筋萎縮や手のしびれの局在が競合する例 | DCMそのものの確定検査ではない |
MRI:神経診察で立てた仮説を検証する
T1・T2強調像で圧迫高位、脊髄変形、前方・後方の原因、髄内信号を確認します[3]。重要なのは「最も狭い場所」を機械的に責任高位とするのではなく、髄節性の筋力・反射・感覚所見と、その尾側の索路徴候を説明できるか照合することです。
圧迫が強くても症候が乏しい例がある一方、軽微に見える圧迫でも動的因子や脊髄の脆弱性によって症候化する例があります。T2高信号は脊髄障害を支持しますが、それだけで診断、重症度、治療適応を決めません。定量的・microstructural MRIは脊髄組織障害の評価法として研究されていますが、現時点では標準MRIと神経診察を置き換える検査ではありません[10,3]。
SEP:主に後索系の機能をみる
体性感覚誘発電位(somatosensory evoked potentials:SEP)は、末梢神経刺激から脊髄・脳へ至る感覚伝導を記録します。上肢では正中神経刺激が主にC6–7髄節、尺骨神経刺激がC8髄節の評価を補いますが、尺骨神経SEPは標準化が十分ではなく、左右差も含めて解釈します[4]。
SEPは後索系に偏った経路特異的検査です。温痛覚を伝える脊髄視床路の障害や、脊髄のすべての機能を一度に評価するものではありませんが、有症候性の脊髄症でSEPに全く異常がでない症例は経験がありません。
MEP:皮質脊髄路の機能をみる
運動誘発電位(motor evoked potentials:MEP)は、経頭蓋磁気刺激などで運動皮質を刺激し、四肢筋から反応を記録します。MEP潜時と末梢運動伝導時間から求める中央運動伝導時間(central motor conduction time:CMCT)の延長は、皮質脊髄路障害を支持します[11]。
ただし、刺激・記録条件、年齢、身長、記録筋、計算方法で基準値が変わります。小規模研究のカットオフを一般化せず、施設基準で判断します。2026年のシステマティックレビューでも、SEP・MEPは早期診断や重症度評価を補う可能性が示されましたが、研究間の異質性が大きく、神経診察と標準MRIを置き換える検査ではありません[12]。
NCS・針筋電図:画像と症候が合わないときに強い
神経根・頸髄病変では、病変が後根神経節より近位にあるため、感覚神経活動電位(SNAP)は通常保たれます。SNAP低下があれば、腕神経叢や末梢神経病変を考えます。ただし併存するニューロパチーや技術的要因には注意します[4]。
針筋電図では、障害筋の分布が末梢神経、神経根・髄節、より広範な運動ニューロン疾患のどれに合うかを評価します。単一筋の線維自発電位やfasciculation potentialだけでは局在も原因も決まりません。
実践的な診断フロー
- 時間経過を確認する
急性・亜急性なら、脳血管障害、炎症、感染、血管性脊髄症、腫瘍などを先に再検討する。
- 手の機能と歩行を具体的に聞く
箸、ボタン、小銭、階段、方向転換、転倒、排尿の変化を確認する。
- 髄節徴候と索路徴候を診察する
筋力・萎縮、上肢と下肢の腱反射、病的反射、筋緊張、歩行を評価する。
- 臨床局在を仮定してからMRIを読む
圧迫高位・方向、脊髄変形、髄内信号が症候を説明するか照合する。
- 不一致なら診断を組み直す
NCS・針筋電図、SEP・MEP、脳・全脊髄画像、髄液・血液検査を、疑う病態に応じて選ぶ。
- 重症度と進行性で紹介・治療を決める
mJOA/JOAスコアだけでなく、転倒、生活機能、職業・趣味への影響、併存疾患を記録する。
手術はいつ検討するか
まず、その症候が頸髄圧迫によるものかを確かめる
手術時期の検討も、症候と画像の対応を確認することから始まります。頸椎に変性所見があることだけでは、手の使いづらさを除圧術で改善できるとは判断できません。ALSや末梢神経障害などが疑われる場合は、必要な神経診察・電気生理検査を行い、責任病変を再評価します[1,2,4]。
軽症例は、一律に悪化するわけではない
安藤哲朗先生は『脊椎脊髄ジャーナル』2025年の自然経過に関する総説で、軽症CSMには悪化期と安定期があり、非手術例の経過を踏まえて手術の要否を考える必要があると論じています。紹介されている研究を概括すると、約70〜80%は安定または改善し、約20〜30%は悪化して手術が必要になると整理されています[13]。
ただし、対象、軽症の定義、保存的治療、観察期間が異なる研究の概括です。「今後も悪化しない確率が80%」という個人の予測や、無症候性圧迫の発症率としては使えません。 圧迫の形状、頸椎の可動性・不安定性、SEP・MEP異常などが予後との関連を示しても、個々の経過を正確に予測することは困難です[13]。
手術を先延ばしにしない場面と、相談して選べる場面
AO Spine/CSRSガイドラインでは、中等症・重症DCMに手術を推奨しています。軽症では手術、または監督下の構造化リハビリテーションを伴う非手術管理を選択肢とし、非手術管理中に神経学的悪化があれば手術を推奨、改善しない場合にも手術を検討します[14]。
| 臨床状況 | 紹介・手術を検討する時期 |
|---|---|
| 中等症・重症のDCM | 外科的評価を早期に依頼する。さらに悪化するまで待つことを前提にしない |
| 軽症でも、筋力・手の巧緻性・歩行などが悪化している | 速やかに再診・脊椎外科評価へつなぐ。MRIで圧迫の増悪が確認できるまで待たない |
| 軽症で安定している | 経過観察と手術の利益・負担を比較し、本人と相談する。生活上の支障や希望も含めて判断する |
| 画像上の圧迫のみで、脊髄症候も神経根症もない | 予防的手術は通常勧めず、症状教育と臨床フォローを行う |
| 脊髄症候はないが、圧迫に神経根症を伴う | 脊髄症の発症リスクを説明し、手術または厳密な経過観察を専門医と検討する |
上表はガイドライン[14]と安藤先生の総説[13]を踏まえた診療上の整理です。単一の画像所見や「発症から何カ月」という固定期間で手術時期を決めるものではありません。
軽症で手術を見合わせるなら、悪化時の対応まで決める
安藤先生は総説末尾の私見として、非手術例の経過、手術のリスクと負担を説明し、患者と相談して選ぶことを重視しています。手術を見合わせる場合には、頸部への動的負担を避ける姿勢の指導、定期的な診察、悪化した場合の速やかな受診と手術の再検討を提案しています[13]。これは、軽症例全員を悪化するまで待機させるという一律の方針ではありません。
根尾・水谷先生の同誌記事では、JOAスコアだけでは捉えにくい仕事・趣味での手の使いづらさ、生活上の制限、本人の価値観も、手術適応の相談に含めることが論じられています[15]。スコア上は軽症でも、本人にとって支障が小さいとは限りません。
経過観察では、箸・ボタン・書字、手指屈伸、筋力、歩行・階段、転倒、排尿症状、反射所見を同じ方法で反復して評価します。診察間隔は症候と経過に応じて個別に設定し、新たな筋力低下や歩行悪化があれば、次の予約日を待たずに受診するよう説明します。手術の相談では、期待する改善と進行予防、残り得る症状、合併症・負担を分けて共有します[13,14,15]。
速やかな専門医評価が必要な所見
- 数日〜数週で進行する手の不器用さ、筋力低下、歩行障害
- 転倒の増加、支えなしで歩けないなどの機能低下
- 新たな膀胱直腸症状
- 軽微な外傷後に急増した四肢のしびれ・脱力
- 臨床的な脊髄症候と、それを説明する頸髄圧迫がある
- MRI所見では説明できない進行、広がり、球症状、末梢神経分布の異常がある
突然発症、発熱・炎症所見、強い頸背部痛、急速な四肢麻痺では、変性疾患に固定せず、血管障害、感染、硬膜外病変、炎症、腫瘍などの緊急疾患を評価します。
まとめ
頸椎MRIに異常があるからといって、それだけで頸椎症性脊髄症とは診断しません。症候から頸髄と責任高位を推定し、その局在をMRIで検証するのが基本です。無症候者にも椎間板膨隆、脊髄圧迫、髄内信号変化はみられるため、画像だけでCSMや手術適応を決めません。症候と画像が一致しなければ、診察・画像・鑑別を再評価します。
SEPは主に後索系、MEPは主に皮質脊髄路、NCS・針筋電図は神経根・末梢神経・運動ニューロン疾患との鑑別を補います。いずれも神経診察の代わりではありませんが、確度の高い診断のためには重要な検査です。
治療では重症度と進行性を重視します。中等症・重症または進行例は早期に脊椎外科へ紹介し、軽症で経過観察する場合も、同じ機能項目を反復して悪化を捉える体制が必要です。
本稿は医療従事者向けの一般的な教育情報です。個別患者の診断・治療は、病歴、診察、画像・電気生理所見、併存疾患を踏まえて担当医が判断してください。
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引用文献
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